2018.07.10,

保育士不足解消の救世主!? 〜潜在保育士の実態から読み解く中高年保育士の可能性〜

こんにちは、プロジェクトサポーター・ライター、どっちもワーカーの村上杏菜です。

 

幼児教育・保育の無償化が話題になっています。我が家にも幼稚園年少児がいるため、無償化の内容はたいへん気になるところです。

先月末、政府が取りまとめた検討会報告書(※1)によれば、全面的な実施は平成31年10月からと検討されているよう。

この方針を受け、保育士不足の一層の深刻化と、それに伴う保育の質の低下が懸念されています。たしかに無償化となればますますの保育ニーズが浮き彫りになりそうですよね。

 

すでに待機児童の問題は、国、私たち共働き家族、未来の共働き希望者にとって深刻な問題です。

その背景にあるのが保育園不足と保育士不足であることは言うまでもありません。平成27年10月には保育士の有効求人倍率は1.93倍となっており、中でも「東京都は、全国で最も保育士の有効求人倍率が高く、平成26年12月~平成27年1月、平成27年8~10月は5倍を超える状況」(「保育士等に関する関係資料」/平成27年/厚生労働省)(※2)。求人に対して人材が足りていないことは明らかです。

 

保育士が足りていないのに、「若い方がいい」!?

 

保育士が足りていない理由としては一般的に雇用や労働条件の悪さが言われています。「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」(平成25年/厚生労働省職業安定局)(※3)によると、保育士を希望しない理由で最も多いのは「賃金が希望と合わない(47.5%)」であり、「他職種への興味(43.1%)」「自身の健康・体力への不安(39.1%)」等が続いています。

 

命を預かる責任の重さ、国の未来を担う子どもたちを保育する意義、そしてその仕事の大変さを考えれば、保育士の待遇改善が急務であることは間違いありません。国や自治体、園の経営母体の対応を期待するところです。

 

そのうえで、つい先日、興味深い話を耳にしました。保育士をしている友人と話をしていた時のことです。

その友人が働いている民間の保育園でも保育士が足りておらず、求人をしていたそうです。応募者の中には40代、50代の有資格者がいたそうですが、その履歴書を見ていた園長は「若い方がいい」「男性はちょっとね」などと、その保育士たちを雇うことに抵抗を見せたそう。友人としては「年齢や性別で差別している場合ではない」と思った、という話でした。

 

あくまで現場の1ケースに過ぎない可能性はありますが、この話を聞いて「もしかしたら現場の採用を担う管理職や園長クラスの意識やフィルターによって、中高年(40代以上)の保育士の採用や活躍を妨げている可能性があるかもしれない」と感じました。

 

実際、厚生労働省の「保育士等に関する関係資料」(平成27年)によれば、東京都で把握できた保育士の年齢階級別構成は「30歳未満」が40.2%、「30歳以上40歳未満」が24.6%、「40歳以上50歳未満」は19.0%、50歳以上は11.5%。30代までの若い層が6.5割程度、中高年(40代以上)は3割程度ということになります。

 

そして、同資料によると保育士登録者数約119万人のうち、潜在保育士(保育士資格を持ち登録されているが、社会福祉施設等で勤務していない者)の数は約76万人だそう。

 

潜在保育士の年齢構成の内訳は記載されていなかったので別の資料で調べてみると、現在保育に就業していない人の年代別割合は20代が9%、30代が19%、40代が32%、50代が28%、60代が10%、70代以上が2%でした(「潜在保育士ガイドブック–保育士再就職支援調査事業・保育園向け報告書」/平成23年/厚生労働省委託事業)(※4)。

 

つまり現場で活躍している保育士は30代までの若い層がメイン。そして保育士登録者の6割以上を占める潜在保育士のうち、その7割以上が中高年なのです。

 

中高年保育士に、いかにアプローチするか?

 

少子高齢化が進みどの業界も慢性的な人手不足に陥りつつある社会で、若い人材の奪い合いは今後も続いていきます。

体力的な面を考えれば若い人材が欲しいのはどの業界も一緒でしょう。しかしもともと少ないパイを奪い合っていれば、現状では決して労働条件や賃金面で有利とは言えない保育業界で若い人材を十分確保するのは至難の技です。

 

であれば、既に資格を持っておりその気になればすぐに現場で活躍できる可能性を秘めている中高年の潜在保育士たちに、いかに“その気”になってもらうかに心を砕くのも一つの策ではないでしょうか。もちろん、この先も年齢問わず良い人材を確保し続けるために、労働条件や雇用条件を改善する姿勢を持ち続ける前提での話です。

 

ここで、中高年の潜在保育士が現場で働いていない理由を探ってみましょう。

「潜在保育士ガイドブック–保育士再就職支援調査事業・保育園向け報告書」の「保育園で就労していない理由」には「年代別の特徴として、30代は『求職しているが条件に合う求人がない』が45.2%、50代は『就職する必要性を感じない』が39.0%でした。50代の4割が就業する必要性を感じないのは、子育てがひと段落したためや、金銭的に必要性を感じないという意見が多く見られました」と記載されています。

 

「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」(平成25年/厚生労働省職業安定局)内の「年齢別に見た保育士への就業を希望しない理由」でも、年齢が上がるにつれ、雇用条件よりも「ブランクがあることへの不安」「自身の健康・体力への不安」「責任の重さ・事故への不安」への回答の比重が増していることがわかります。

 

これらから、単に「賃金アップ」の面だけでのアプローチでは潜在保育士となっている中高年へ訴求できない可能性が高いことがわかります。保育士の年齢や体力に応じた仕事内容の割振りなどのマネジメントの工夫や、保育という仕事の社会的意義、価値の再評価といった面で訴えていくことが、中高年保育士の心には響くのかもしれません。

 

健全な労働環境を保ち、良質な人材を常に確保するためには待遇面での改善が必須であることはもちろんです。しかし、仕事の質、社会的な存在意義を考えれば、保育士不足の問題は賃金面だけで解決できるようなものではないのかもしれない、と今回の考察を通じて感じました。

 

そもそも保育士の人たちは、お金を一番の目的としてこの仕事に携わろうとする類の人たちではないだろうとも思うのです(もちろん、だからこそ金銭的対価の伴わぬ労働力の搾取が発生しないよう、社会全体で支援する必要があると思います)。

 

環境、金銭面などハード面での対策だけでなく、保育とそれに携わる職業に関するソフト面での考察による対策を講じることも必要でしょう。そして、採用の決定権を握る人たちには、ぜひ若い保育士だけでなく、中高年の保育士の積極的な採用へのアプローチが保育士不足解消の一旦を担うことも意識してもらえたらいいなと思います。

 

保育園や幼稚園を日々利用する親の立場としては、先生への感謝の気持ちを積極的に示すことや、躾の面で任せっぱなしにしないなど、当たり前のようで忘れがちなところから日々気をつけていこうと、我が身を振り返りながら考えます。

 

【参考】

※1 幼稚園、保育所、認定こども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mushouka/index.html

 

※2「保育士等に関する関係資料」/平成27年/厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/s.1_3.pdf

 

  • 3「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」/平成25年/厚生労働省職業安定局

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11907000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Hoikuka/0000026218.pdf

 

  • 4「潜在保育士ガイドブック–保育士再就職支援調査事業・保育園向け報告書」/平成23年/厚生労働省委託事業

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/h120423_g.pdf

Posted by 村上 杏菜

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