こんにちは、プロジェクトサポーター・ライター、どっちもワーカーの村上杏菜です。
「子どもが生まれたらパパもママも周りも幸せいっぱい!」
もしかするとこのようなイメージを持っている人も多いかもしれません。
しかし、実際はどうでしょうか?
「産後クライシス」「産後うつ」「生まれる前から保活」といった言葉をメディアでもたびたび見聞きするように、“出産前後のシビアな現実” が注目されはじめています。
9月初旬〜半ばにはこんなニュースが多くのメディアで話題になりました。
この報道のベースになっているのは、今回、妊産婦の自殺に関する全国の実態を初めて明らかにした国立成育医療研究センターの調査です。2015〜2016年に死亡した妊産婦のうち自殺は102例と、死因の最多(3割)であることが判明しました。
そういえば、産後間もない母親が自殺をしたり、子どもと無理心中したりというニュースが最近よく報道されていますよね…。
幼い子どもがいる身で自ら死を選ばざるを得ない精神状態。想像するだけでいたたまれない気持ちになるのは私だけではないでしょう。子どもがいる人であれば、産後の大変さや不安、自分を責めたくなる気持ちなど共感する部分も多いからこそ、追い詰められた先のそうした不幸になんとも言えない気持ちになります。
背景には一体何があるのでしょうか?
同調査では、産後自殺の特徴として「35歳以上」「初産婦」「無職世帯」が挙げられていましたが、残念ながらその理由や背景などは書かれていませんでした。
そこで今回のコラムでは、各種の調査をもとに、もはや他人事ではない産後うつの背景を私なりに考えていきたいと思います。
「産後うつ」に陥りやすいのは産後1ヶ月、不安定は半年までがピーク
厚生労働省「健やか親子21」の調査によれば、出産した女性の10%前後が出産後にうつ状態に陥るとのこと。また、同省の「新たな自殺総合対策大綱の在り方に関する検討会(第3回 平成29年1月)」のヒアリング資料「妊産褥婦の自殺−東京都の集計及び概略分析」でも、産後の自殺者の半数近くにうつ症状があったことが示されています(しかし、うつ病に至った理由や背景には触れられていないため、社会的なレベルでの原因究明にはもう少し時間がかかるのかなと思います)。
産後の母親をうつ病になるまで追い詰めてしまう背景には一体何があるのでしょうか?
厚生労働省の補助事業として社会福祉法人日本保育協会が実施した「子と親と地域をつなぐ子育て支援─地域における子育て支援に関する調査研究報告書─」(平成25年3月)の子育て応援アンケート調査(※)によると、「第一子の子育てで辛かった時期」は「退院直後~1カ月」と答えた人が最も多く、実に全体の52.5%にのぼっています。
私自身の育児を振り返ってみても、産後1カ月はおろか、産後4カ月頃までの記憶がほとんどなく、私が子どもを心から「可愛い!」と思えてきたのも産後半年くらいからでした。今思うと初めての出産、育児はそれくらい大変でした。
ちなみに、この調査結果のページには『第一子の子育てで多くの母親が辛いと感じるのは、出産後すぐから4カ月頃であり、出産後間もない時期の母親へのサポートが重要になるということがわかります』と分析コメントが掲載されており、産後の辛さは子どもの成長とともに少しずつ和らいでくることがわかります。
ちなみに、同調査の「子育てが辛かった時期に感じたこと」については以下のような結果が出ています。
- 自分のために時間を確保するのが難しい 65.8%
- 子どもの育ちに不安(順調に育っているかどうか) 49.9%
- 夫婦二人の時間の確保 44.8%
- 何をしても泣き止まなくて困る(夜泣きがひどい) 43.9%
- 子育ての仕方がわからない 37.5%
産後を体験している人であれば「わかる、わかる!」と納得できる回答結果ですよね。
続いてもう一つ、民間の調査から。
妊娠・出産&口コミ情報サイト「コンビタウン」による「マタニティブルー/産後うつ」をテーマとしたアンケート調査(2012年12月)によると、出産後、精神的に不安定な時期があった人はなんと74%にのぼっています。
具体的に「精神的に不安定だった時期」としては以下…
- 出産後1カ月〜6カ月後 45%
- 出産後1日〜15日後 43%
- 出産後16日〜31日後 36%
- 出産後7カ月〜11カ月 11%
- 1年後以降 7%
このアンケートでもやはり産後半年までに回答が集中していることがわかりました。
身体も心も、とにかく全部がしんどいのが産後
上記、コンビタウンの調査では、もっとも辛さを感じた出産後半年までの周囲の状況、自分の精神的状況について以下のような回答結果が出ています。
- 体を休める時間がなかった 58%
- 子育てに対する精神的不安があった 50%
- 出産前の生活とのギャップが大きかった 36%
- 子育てをして体力的に限界だった 30%
- 夫との生活に悩んでいた 19%
肉体的な辛さに加え、精神的な辛さも大きくのしかかっていることがわかります。自分の身体のケアを含む “自分の時間” が確保できない辛さ、子育てに対する漠然とした不安、そして夫とのコミュニケーションと、産後半年以内の女性は、「私自身」「母として」「妻として」という3つの立場・側面で不安や悩みを抱えているのです。
普段であれば、たとえば個人的な悩みはあっても夫婦関係はうまくいっているとか、親としての不安はあるけれど仕事はうまくいっているとか、ある種の均衡は保たれていることが多いはず。産後はただでさえホルモンバランスが乱れて不調になりやすいのに「私」「母」「妻」のすべてが不安定になるのですから、辛いはずです。うつ病になる人がいたって全く不思議ではないと私は思います。
では、そのような状況の中で、うつ病や自殺に追い込まれないようにするにはどうすればよいのでしょうか…?
今回のデータに基づく考察と私自身の経験をもとに、次回のコラムは自分でできる防御策について考えてみたいと思います。産後は何より一人で頑張らず、パートナー含め周りの人に頼ることが重要なので、この辺についても触れていきます。
最後に、2017年から厚生労働省による産後うつ健診費の助成が行われていることをお伝えしておきます。おおむね産後2週間と1カ月の2回の健診費用を上限5000円/回で助成してくれるとのこと。普及していくのはこれからといった印象ですが、うまく活用していきたいものです。
くれぐれも、産後、「うつっぽいかも」と思ったら、迷わず病院を受診しましょう。追い詰められるのはあなたが “弱い” からではありません。今回の考察をふまえれば、追い詰められない方が不自然なくらいなのですから!
(※) 千葉県柏市、山口県下関市でのアンケート調査