共働きパーソンへのインタビュー、Case.5は、第三子の誕生を機に夫婦でフィジー共和国への1年間の育休移住(育児休業中に短期間の移住を体験すること)を実行している大畑さんご夫婦です!
プロフィール
【夫】大畑 愼護 (31) 株式会社ワーク・ライフバランス コンサルタント
【妻】大畑 恵吏 (31) 鍼灸師
- 居住地:フィジー共和国 ナンディ
- 結婚年数:7年
- 出会ったきっかけ:小学校・中学校の同級生
- 長男(6)、長女(2)、次男(0)との5人家族
企業に向けた生産性向上のコンサルティングを行う(株)ワーク・ライフバランス(以下、WLB社)でご活躍中の大畑愼護さん。働き方改革を牽引する会社にいらっしゃるということで、育休の取得は「さすが!」という感じがしますが、とはいえ1年間という長さと海外移住については社内からも驚きの声が上がったのだとか。文化や生活様式、価値観の違う国で生活することを選んだ背景や、夫婦それぞれのキャリアへの影響、そして男性が育休を取るとことのさまざまなメリットについて、じっくりお話しをお伺いしました! 【小山佐知子】
フィジーの自宅の前で家族写真。3週間のホテル住まいを経て、現在の自宅を見つける
男性の育児休業
望めば当たり前に実現できる社会に向けて
—日本では男性の育休取得自体まだまだ市民権を得ているとは言い難いと思うのですが、そんな中、1年取得というのはすごいですね!!
大畑愼護さん(以下愼護):育休自体は先の2人の時も取得していました。でも両方2ヶ月程度だったので、3人目の今回、「1年取ります!」と社内に報告した際には「おーーっ!」という感じで……盛り上がりました(笑)
—世の中的には “2ヶ月” でもすごい気がしますが、WLB社でも1年間の取得はやはり珍しかったですか?
愼護:そうですね。男性では7か月間が最長だったので、1年間の取得は初でした。日本の男性の育休取得率はまだ5%程度なので女性の取得率(83%)とは比べものにならないのですが、これでも年々伸びてはいまして……。ただ、期間でいうとその多くが2週間以内の取得。1年間取得した人の割合は0.001%程度なので、やはり私のようなケースはまだまだ希少ということになりますね。
—なるほど。でも、のびしろだらけということでしょうから、貴重な事例ですね!共働き未来大学でも以前、ご夫婦で1年間の育休を取得した事例を掲載させていただいたのですが、とても反響があったんです!なのできっと大畑さんの事例もどなたかの背中を押すことになるのでは、と思いますよ。
愼護:そうだと嬉しいですね。今は、まだ世間がやらないことをやっていると「冒険者」とか「チャレンジャー」もしくは「変わった人」みたいに見られてしまうことがありますから。これからの社会ではやってみたい!と思った人が当たり前に実現できるようにならなければまずいと感じています。
—とても共感できます。このサスティナピープルの特集も、真似できないスゴイことをしている人たちを紹介したいわけではなく、読んでくださっている方に「あ!こういうやり方もあるんだ」「真似してみたいな!」と思ってもらうきっかけになればと思っていますから。
愼護:私は「再現性がある」という言葉を好んで使うのですが、これもまさにそうですね。働く個人にとっても企業側にとっても何かのきっかけになると嬉しいです。私の場合は、仕事柄(会社柄)職場の理解を得やすかったというのは確かにありますが、まだまだ世の中には、社員が「1年間、育休を取りたい!」と思っても会社の理解を得られず実現に至らないケースもあるでしょうから……。なので、私がこの体験をシェアしていくことに意義があるのかなと思っています。
—本当にそうだと思います!そういえば、大畑さんのこの短期移住のきっかけも、お勤め先であるWLB社代表小室淑恵さんとのSNSでのやりとりがきっかけだったとか…?
愼護:はい。1年ちょっと前、3人目の妊娠がわかる少し前のことなんですが、小室が『フィジーで1年の海外育休生活。南の島で「育休」してみませんか?』という記事をFacebookにシェアしていまして。私がその投稿に対して「3人目はこれかな」と反応したら、すぐに小室から「いいよー(笑)」というコメントが入ったんです。その直後に妻の妊娠がわかったので「これは実現してしまうのでは!?」と思いました。
—お話を聞けば聞くほど、職場の理解は大事だなと思います!
愼護:ありがたいですね!だからこそワーク・ライフバランスコンサルタントとして帰国後はこの経験を仕事上の糧にしたいです。
子どもだけでなく、親も一緒に成長していくチャンス!
育休移住のウマミを存分に味わう毎日
—それにしても、1年間の育休期間をなぜ「移住」という形で過ごそうと思ったのですか?
愼護:(1)子ども主体の子育てができる(2)大人も成長できる(3)新しい価値観に触れられる という3つの理由からです。これは国内での移住にも言えることですが、「育休×移住」ってすごくウマミが多いと思うんです。
—というと?
愼護:私たちは以前から移住に憧れを持っていまして。でもイメージ的には「仕事を辞めて心機一転!」みたいな感じで何かを捨てて何かを得るというか……後戻りもできないし、覚悟を試されるものだと思っていました。でも、育休を活用すれば仕事を辞めずに移住体験ができるんです。
—なるほど。ではなぜまた国内ではなく、海外…フィジーを選んだのでしょうか?
愼護:まずは夫婦ともに「南の島」に憧れていた点です。あとは多様な価値観という意味で国内より海外がいいかなと。実際、マルタ共和国やタイ、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドなどを候補に挙げました。最終的にフィジーに決めたのは、(1)子供が遊びやすい自然豊かな南国で(2)日本と全然違う価値観を持っていて(3)英語が身につく という3つの理由からです。実際暮らしてみると、育休中の収入(育児休業給付金と児童手当)だけで十分やっていけることがわかってよかったなと!
—でも、恵吏さんにとっては産後2ヶ月での渡航ですよね?大変じゃなかったですか?
愼護:はい。自身の身体のことはもちろんですが、生まれて間もない子どもを海外に連れていくということに大きな不安を感じていて、この移住もどちらかというと最初は反対でした。海外で3ヶ月以上暮らしたい!という夢はあってリビングの壁に決意表明のような付箋を貼っていたのですが、決して育休移住を想定していたわけではなく……それは老後の話でした(笑)。
—なるほど、そうだったのですね。でもお写真を拝見する限り、恵吏さん、本当にイキイキしていますよね!?
愼護:はい、本当に楽しんでいますし、東京にいた頃に比べて自分の時間が持てるようになったとも話しています。以前は何かとLINEなどで色んな人と頻繁にやりとりすることが多く慌ただしさもあったようですが、今はそれも落ち着いて。移住については最後まで躊躇していた妻ですが、最終的には周囲のポジティブな意見に背中を押されて…大きなチャレンジでしたが、大きなトラブルもなく楽しく暮らせていてよかったです!
—暮らしやすそうなイメージがある一方で、発展途上国という意味でもいろいろご苦労もあるのでは?
愼護:生活環境については不安な点もたくさんあります。たとえば医療面。こちらでは病院にかかったときの診断結果があまり信用できなかったりします……日本では考えられないですが。なので、症状が出たらある程度は自分たちでも仮診断ができるように知識をつけていたり、薬についても、フィジーのちょっとした薬局くらいのストックはあります。備えあれば憂いなしですね!ただ、ありがたいことに、生後5ヶ月の次男も一度発熱したくらいで家族全員元気に過ごしています。空気が良くストレスも少ないからでしょうか。
■ 1日のタイムスケジュール ■
6:30 起床、朝食作り
8:30 長男と長女を保育園に連れていく
次男のお世話をしながら、家事(掃除・炊事・洗濯・買出し)
空いた時間に執筆活動
13:30 保育園お迎え
14:30 海またはプール (ビーチは大人の足で徒歩15分程度)
現地のフィジー人家族や日本人家族を招き入れて遊んだり夕食を取ったりすることも
17:30 夕食
20:00 子どもたち寝かしつけ
寝かしつけが終わったら夫婦で1日の出来事を話したり、会話の時間を大切にしている
—上のお子さん二人はいま保育園に通われているのですね!現地の保育園はいかがですか?
愼護:楽しくやっていますよ。最近週3日の慣らし保育が終わって、今は週5で保育園に通っています。フィジーの社会は日本に比べると上意下達なので教育やしつけも厳しいと感じる点もままありますが、それでも園長先生はじめとても優しく安心しています。日本人のご家庭もいますし、現地のフィジー人のご家庭とも仲良くさせてもらっています。
—1日のスケジュールを拝見する限り、「自分の時間」というのはあまりなさそうな気がしますが…
愼護:2人が保育園に行っている間も、次男は一緒にいますから、妻と一緒にお世話をしながら家事をしているとあっという間にお迎えの時間になります。私の執筆も基本的に空いた時間に行っていますからあまり「自分の時間」を意識することはないかもしれません。とはいえ、お互いに一人でゆっくりしたいときもあるので、どちらかが家事育児を一挙に引き受けてまとまった余白の時間を作れるようにしています。
左:どこに行っても可愛がってもらえる次男
右:近くのスーパーまでプロパンガスを一緒に買いに行ってくれる長男
仕事、3人の子どもの育児、家族の未来…
結婚は好きな人と一緒に「変わり続ける」こと
—子どもたちを寝かしつけた後で意識的に夫婦の時間を取っているとのことですが…?
愼護:日中のエピソードを中心に話すことが多いですね。子どもも日々成長していますし、そんな子どもたちと一緒に私たちも本当に成長させてもらっていますから、自然と自分たちの心の変化やこれからやりたいことなどが話題になります。
—いま、東京での暮らしを振り返っていかがですか?
愼護:そうですね…例えば仕事と家庭の両立という意味では、スケジュール管理など連携プレーでよく頑張っていたなと。妻は鍼灸師として病院や鍼灸院で働いていましたので、患者さんの予約が優先ですから急な保育園の呼び出しで欠勤することは基本できません。そうした際には私がお迎えに行くなど柔軟に対応していました。それでも私が動けないときは、妻が患者さんに連絡して予約を調整するということで乗り切っていました。
—まさにチームプレーですね。共働きする上で、そうした連携は徐々に磨かれていったのでしょうか?
愼護:はい。長男が生まれたときは、仕事と育児の両立や家庭の役割分担などでうまくリズムが取れずよく喧嘩していましたから(笑)
—そうはいっても本当に仲が良さそうなご夫婦で、3人の可愛い子どもたちにも恵まれて幸せそうですね!
愼護:最近は事実婚も増えていますし、「結婚はコスパが悪い」とか「子どもが生まれると自分のやりたいことができなくなる」なんて言われていたりもしますが、私は結婚について「好きな人と一緒にいること」、「変わり続けるもの」だと考えています。たしかに結婚には一定の不便も伴いますが、だからこそ、「相手のことが好き」「尊敬できる」気持ちが大事というか……コストパフォーマンスの良し悪しではない、合理性を超えたところに結婚の価値がある気がしていて。その時その時に応じた選択をしながら、新しい経験をして色んなことを分かち合っていけるのも家族を持つことの良さなのかなと。
—なるほど、深いですね。そして、好きな人と一緒に「変わり続ける」っていいですね!
愼護:振り返ってみると、いつも心地良く過ごせるために、状況に応じて生活スタイルや仕事のスタイルが緩やかに変わり続けてきました。ただ、それは何かを “諦める” こととは違っていて。結婚したからといって、親になったからといって何かを犠牲にしたり我慢する必要はないんです。3人子どもがいてもこうして家族で移住ができちゃうんですから…!成長の機会つくる。そしてそれを許可してくれる人との良好な関係を築く。そうやって生かされている部分もありますね。
左:フィジーの子どもに刺激を受けて、ヤシの木に登り始めた長男
中央:次男生後5か月の記念撮影。マンゴーと花は家の庭で、ココナッツはヤシの木に登って採りました
右:フィジーのご家庭を自宅に招待した時に作ったフルーツポンチを前に満面の笑みの娘
社会・個人ともに「自分らしい生き方」を模索するいま
私たち家族の経験が一つの選択肢になれば嬉しい
—大畑さんはこの育休移住の経験を綴ったサイトを立ち上げられていますね?
愼護:はい!『育休移住.com』というブログサイトを立ち上げました!育児休業をとって海外に短期移住するための方法や、フィジー移住の様子がわかる現地情報などが満載です。
—見ているだけでこちらもワクワクしますし、移住したくなっちゃいます(笑)
愼護:私たちのこの体験も、まだ折り返し地点にすら辿りついていないので、まだまだこれからたくさんのことがあると思いますが、日々の暮らしのすべてが日本では経験できないことばかりで本当に楽しいです。もちろん、5人の命を守る責任があり、大変なこともありますが。それでも、子どもの世界観の広がりであったり、さまざまな関係性の中で育てる経験ができることであったり……フィジーで育休移住できてよかったです!
—最後に、帰国後にどんなことをしたいか、もしあれば教えてください!
愼護:家族のライフプランという意味では、思い切って白紙にしています。不確定要素が多いこともそうですが、今はあえて描く必要がないと思っているからです。ただ言えることは、育休が明けて、私も妻もまた仕事復帰した際には、この経験を糧にさらにいいチームワークで両立できるのかな、と。
ワーク・ライフバンランスコンサルタントとしても、私たち家族が経験したことを生き方の一例として伝えることができると思いますし、「男性が一年育休を取ってフィジーに短期移住」という前例が、日本社会の当たり前を広げることに役立つことを願っています。