2017.12.12,

“多様な働き方社会” は本当に実現するのか ~熊本市議子連れ議会騒動から見えた課題~

こんにちは! 共働き未来大学プロボノ・編集ライターの山田です。さて、今回のコラムでは、赤ちゃん同伴で議会出席を試みた熊本市議の『子連れワーキング』が発端となった“子連れ議会騒動”から透けて見えた、これからの“多様な働き方”への課題について考えてみようと思います。

熊本市議子連れ議会騒動の概要

発端は先月11月22日(2017年現在)。生後7か月の赤ちゃんを連れて議場に現れた緒方夕佳・熊本市議が議会出席可否を巡って議長らと押し問答。最終的に緒方市議が子連れ同伴を諦め一時退席、赤ちゃんを友人に預けたことで決着しました。しかし、この一連のやり取りで議会の開始が40分ほど遅れたため、11月29日、熊本市議会は議会運営委員会を開催。緒方市議に対し「議事進行を妨げた」として、文書で厳重注意を通知ーーというもの。

この “熊本市議会子連れ議会騒動” の第一報が報じられるや否やネットを中心に『子連れワーク』是非について賛否両論の声があふれました。
twitterでは、映画監督の紀里谷和明さんが「紀里谷と仕事をされる方はどなたでも子供連れてきてもらって結構です」という子連れOKを宣言。これを機に、続々と著名人が賛同を表明しました。さらに認定NPO法人・フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんが「この輪(子連れワーク)が広がりますように。#子連れ会議OK」とハッシュタグ付きでツイートしたことにより一気に拡散。今なお、多くの人が『子連れワーク』の是非に関して議論を交わしています。

ネットで多く見られる否定的な意見

産経新聞によるとネット上では、子供を連れての議会出席に8割超が「認めるべきではない」と回答した調査結果もあるそう。

代表的な意見としては「子どもと一緒になんて仕事ができる訳がない」「一時保育を利用すればいい」「ルール違反だし、パフォーマンスに子どもを利用するなんて」といった否定的なものが少なくありません。
なぜ本質を無視して「子どもには寛容な社会であるべきだけれど、強行突破するやり方はおかしい、だから彼女は悪いんだ」という風になるのでしょう。(え、フリーランスは保活すると必ず窓口で「ご自宅で仕事されているんですか。じゃあ、お子さん見ながら仕事できますね」とか言われてますが? 「一時保育を利用すればいい」と言ってますけどね、確保するのだってどれだけ大変か、モゴモゴ…以下自粛)

わたしの愚痴はさておき、緒方市議は子連れで議会に出席した経緯について次のように語っています。

「私が目指すのはさまざまな子育てや働き方のスタイルを認め合うこと。その一つとして仕事によって母子が分離されない姿。一緒にいるのは赤ちゃんにも母親にも大切。赤ちゃんの発達にも必要で、大事な部分でもある。産休後は「預けなければいけない」ではなく、母子を分離しない働き方もできるようにしてほしい」(一部抜粋・毎日新聞より)

緒方市議は働く母親の選択肢を広げたかった。そのことを世間に訴え、議論を深める場が欲しかったのでしょう。実は9月(同年)、沖縄県北谷町では生後3か月の赤ちゃんと一緒に議会出席を果たした女性議員もいるのです(沖縄タイムスより)。
このケースでは北谷町議会が全面的に議員の子育てを後押し。議員控室を託児室として代用する案に全員が賛成したとのこと。そんな周囲に支えられ、女性議員は10~17時半までの長丁場を乗り切ったのです。なぜ熊本市議会では実現しなかったのか。違和感を禁じ得ません。
ともあれ、子連れワーキングを希望する立場からだけではなく、子連れワーキングを導入する側の「現場の声を聞いてみよう」ということで、子連れ出勤を導入している企業の見学会に参加してきました。

「とりあえず、やってみよう」自然に始まった子連れ出勤

4年前から『子連れ出勤』を導入しているソウ・エクスペリエンス株式会社。体験ギフトのカタログなどの企画・販売を手がけている企業です。
当日、会社にいたのは6人のお子さん。となれば子どもの声が響き渡っているかと思いきや意外にも静か。その理由を「“慣れの問題” が大きいんです。慣れてしまえばうるさくて困る、ということはほとんどないんですよ。電話の時は静かにしようね、商品には触っちゃだめだよ、という声掛けをすれば、子どももちゃんと分かってくれるんです」と広報・関口さん。
そもそも『子連れ出勤』を制度としてきっちり導入したわけではなく、「とりあえずやってみよう」と自然な流れで始まったというオフィスの雰囲気はとても和やか。こちらでは土足禁止エリアを設けており、そこにお子さんがいる形をとっているのですが、発送作業などを行うスペースでもあるため、仕事をするスタッフの側でお子さんたちが遊んでいます。

発送業務をするスタッフの側に子どもたちが

子どもを受け入れる雰囲気が浸透しているオフィス

具体的な取り組みとして、机の角を緩衝材で保護したり、机の上に危ないものを置かない、といった安全面の配慮に加え、LINEなどを利用した細やかな連絡提携、また子連れスタッフからの要望で生まれた『みなしお世話時間(※)』など。
スタッフ全員、子どもたちがいる空間にすっかり慣れている様で、子どもや子連れ出勤をしているスタッフに過度な配慮をしている様子は全く感じられません。もちろん、スタッフと子どもたちはとても仲良し。“仕事” と “子どもがいる” 場が違和感なく交わっている、そんな印象を受けました。
意外だったのは、こちらは原則3歳までは保育園利用を推奨していること(保育園に入れなかった、もしくはやむを得ず預けられない場合はこの限りではないそう)。
スタッフの中には、たまに子どもを連れてくる人もおり、子どもが預けられない、という場合へのセーフティネットとして機能している一面もあるのです。

「スタッフが1人減ると “仕事が回らない” という現実と “待機児童” という社会問題をクリアするために『子連れ出勤』という働き方が生まれました。スタッフへの優しさというよりも、厳しい現実を乗り越えるために生まれたアイデアなんです」

向いている業種、会社の規模などはあるにせよ、会社・スタッフ、双方のニーズが合致しているからこそ続けられている、というソウ・エクスペリエンスの『子連れ出勤』。課題を乗り越えるために、その時々のニーズに合った働き方や制度が生まれる――。なんて素晴らしい取り組みなのだろう。これこそが “柔軟な働き方” であり、『子連れ出勤』の目指すべき姿だと感じました。

ある子連れワーカーの本音

子連れワーカーであるわたしは、先方が子ども同伴に難色を示されたら、子連れワーキングをしない、と決めて仕事をしています。いくら自分が「子連れワーカーです!」とはいえ、仕事は相手があってのこと。『子連れワーキング』はその働き方を希望するものと相手方、双方の理解と了承があって初めて実現できる働き方といえるでしょう。
そして、「『子連れワーキング』を柔軟な働き方の一つに!」と活動しているわたしですが、その広がりに限界を感じていることも事実なのです。「『子連れワーキング』への課題は “個” で解決するもの」という世間一般的な見解の壁は思った以上に高く、風穴をあけることは容易なことではない、と身をもって経験しているのです。
だからこそ、『子連れワーキング』という働き方を “個” から “社会” で議論する場に引き上げてくれた緒方市議の勇気ある問題提起に感謝しています。しかし、彼女へのバッシングを目にする度、「果たして自分は働く、と願うことが許される身なのだろうか」と不安になるのです。
沖縄県北谷町で子連れ議会出席が実現したことは、一重に、町議会側の「若い人がどんどん政治に参加してほしい」という狙いと「育休もなく預け先がない」という女性町議のニーズが合致した結果。決して過度な配慮からではなく、双方にメリットがあり、町全体が一人ひとりに合った働き方を模索・実践していく前向きな流れがあったからこそ、なのでしょう。これこそが「多様な働き方」のあるべき姿ではないか、と思うのです。

多様な働き方があるのならば、柔軟な働き方が選べるように

“熊本市議子連れ議会騒動”から透けて見えた多様な働き方に対する社会の拒否反応は決して看過できるものではないでしょう。政府が目指す “多様な働き方” に対して社会が「No!」を突きつけたといっても過言ではないのですから。
ですが、どうか否定ではなく肯定から始まる前向きな議論がなされることを望みます。子連れワークの現場では有能な人材確保と待機児童問題、といった課題をクリアすべく、日々取り組んでいます。
「子持ちだから」「介護があるから」など制約を受けている人に「〇〇だから出来ない」と理由を積み上げるのではなく、まずは「どうすればお互いの問題を解決できるのか」という議論の場を設けることこそが、多様な働き方社会が実現する一番の方法ではないだろうか、そう思うのです。

 

※みなしお世話時間・・・おしめ替えや授乳など子育てに費やす時間をオフィス滞在時間から差し引く制度。子どもの世話で仕事をする時間が少なくなってしまうことで後ろめたさを感じてしまうスタッフ側からの提案で生まれたそう。給与からどのくらいの割合で差し引くかは、会社と当人と相談しながら決定。

Posted by Yamada Ikuko

編集&ライター業のママフリーランス。会社員の夫とともに「わが家らしい共働きスタイルってなんだろう?」と日々模索中。
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