こんにちは! 共働き未来大学プロボノ・編集ライターの山田です。新年度スタートと共に入学、入社などで新しい環境の下、過ごされている方、多いのではないでしょうか。新しい環境、といいますと、私事で恐縮ですがこの春二人の娘は小学生とプレ幼稚園生に、そしてわたしはといえば姓が変わって10年になりました。10年前の今、まだ会社勤めをしていたわたしは働く際、使い勝手の良かった旧姓を使うことにし、フリーランスとなった今でも旧姓で仕事をしています。理由は後述することにして、あえて “旧姓で” 仕事をしている当事者の立場から、今日のコラムでは『選択的夫婦別姓』について考えてみようと思います。
もともと夫婦同姓ではなかった日本
江戸時代、名前しかなかった平民に姓が認められた明治。そして明治9年、女性は結婚後、実家の姓を用いることとなりました。つまり日本はもともと「夫婦別姓」だったのです。
「夫婦同姓」になったのは明治31年(1898)、明治民法(以下、旧民法)が制定されてから。この旧民法において、▽婚姻は家同士の契約▽戸主と家族は家の氏(姓)を称する▽女性は婚姻によって男性の家に入る――など家父長制が色濃く反映された「家制度」(※)を制定。夫婦が結婚するときに姓を変えるのは女性である、と法によって決められ「夫婦同姓」がスタートしました。それが今から120年前のことです。
夫婦別姓の議論で反対する方々はよく「夫婦で同じ姓を名乗ることが日本の伝統」と口にされるのですが、日本の歴史1300年と比較するといかんせん短い。これで伝統うんぬんを持ち出すのはこじつけではなかろうかと……。
話を戻しますが、戦後昭和22年、旧民法は男女平等の観点から大幅に改正されます。昭和民法では、家長である戸主、そしてその跡継ぎとなる長男への絶対権力体制の家制度を廃止。婚姻は家と家ではなく本人同士が、婚姻後の姓は「婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」という選択の余地が付き、今に至っています。
夫婦別姓が求められている背景
わたしは婚姻時、特に話し合うこともなくパートナーの姓に変えました。「どちらの姓を選んでもよい」とはいうものの、女性が圧倒的に男性の姓に変える。それはデータからも明らかです。厚生労働省の人口動態調査(2016)によると、妻が夫の姓に変える割合はなんと96.0%。旧民法時代の慣習がここまで影響を与えるとは……。う~ん、驚きです。
わたしの周囲で結婚した女性でいえば、姓を変えている率100%。もちろん既婚女性フリーランスにおいても旧姓使用率100%! みんな旧姓に執着している、というよりは、仕事上の便宜を考えてのこと。旧姓で築いてきたキャリア、信用、実績を維持するために、姓を変えて仕事をすることは “リスクに値する” 感覚なのですよね。
ただ、公式な書類で旧姓使用が認められないことも多いので、お互い「不便よね~」と愚痴り合うことはしょっちゅうです。(とはいえ、旧姓使用はリスクや手続の煩雑さだけではなく、人によってはアイデンティティの問題もはらんでいることを申し添えさせてください)
近年の結婚・出産後も働き続ける女性の増加に伴い、旧姓を使用し続ける女性が増加している。加えて夫婦別姓を認めない日本の民法規定について、国連も再三の是正勧告をしている。これらが追い風となり、『選択的夫婦別姓』を求める声が高まっている、という現状なのです。
『選択的夫婦別姓』を知る
夫婦別姓を議論する上で最も勘違いされること。それは夫婦別姓を望む人たちは夫婦別姓の強制ではなく、『選択的夫婦別姓』を望んでいるのです。
『選択的夫婦別姓』というのは、
というもの。
婚姻関係を結ぶ当人同士が話し合って、同姓が良いと思う夫婦は同姓に、別姓が良いと思う夫婦は別姓に、ということなのです。果たして、夫婦の姓を “選択” することについて世論はどうとらえているのでしょう。
先日、内閣府が発表した「家族の法制に関する世論調査」では、選択的夫婦別姓制度の導入に向けた法改正について賛成が42.5%に達し、反対の29.3%を大きく上回りました。しかも男女ともに60代以下は賛成多数だったにも関わらず、70代以上は反対が52.3%と過半数を占め世代間の意識の違いが浮き彫りに。現在70代の方たちは旧民法の「家制度」世代です。その影響を色濃く受けているのでしょうか、「個」ではなく「家」という単位で家族を捉えてしまうのでしょうね。
実はわたしの実父も70代。調査対象の70代の方たちと同じく家制度の価値観そのままに、むしろそれこそが常識なのだと考えている両親の元で育ちました。しかし悲しいかな、わが家は3姉妹で全員女。そのため「婿を取った者が家を継ぎ、家の全てを受け継ぐ」と言われ続けてきました。幼いころは「そういうものなのか」と思っていましたが年齢を重ねるにつれ、その家風に得も言われぬ窮屈さを感じるように。家を大事にしたいという両親の思いとは裏腹に「家とは個人を犠牲にするものなのか。子は家を繋いでいく道具に過ぎないのか」と反発心が芽生えていったように思います。結果、結婚をし姓を変えることで、家のしがらみから逃れられ新しい自分になれるのではないか、と考えるように。わたしが抵抗なく姓を変えたのも、その流れがあったからだと思います。
わたしは婚姻によって姓を変えました。が、仕事では旧姓を使い続けたい。その場合、旧姓でも手続きなどが煩雑にならないよう、法律上の根拠を作ってほしい。そんな風に公式書類での旧姓使用を望む人たちにとって、朗報が舞い込んできました。
平成30年1月、サイボウズの青野慶久さんらが「戸籍上の旧姓も使えるようにするべきだ」として選択的夫婦別姓を求め、国を相手取って訴訟を起こしました(今月16日に第1回口頭弁論が東京地裁で開かれ、国は争う姿勢)。この訴えでは民法上では夫婦は同姓(子どもも夫婦と同姓)になりますが、改姓した方は届け出を出すことで戸籍法上の呼称である旧姓を使用可能にする、というもの。旧姓使用の法的根拠を求めているわけですね。
もちろんそれぞれの姓のままで結婚したいカップルにとっては、前述のやり方では根本的な問題が解決しません。が、続く同3月、東京と広島の事実婚夫婦4組が、夫婦それぞれの氏の使用を望むカップルに法律婚が認められないことは、憲法が保障する「法の下の平等」に反する、として集団訴訟を起こしました。
こちらの訴えは、夫婦別姓での婚姻届受理と同姓と別姓、それぞれ希望するカップル間の不平等をなくすべきだ、というもの。
どちらの訴えにも共通するのはどちらか一方的に姓を “変える” ではなく “選ぶ” 権利を求めています。
『選択的夫婦別姓』は異なる価値観を認め合う社会の道筋となるか
旧姓使用を求める声を受け、昨年、政府は女性が活躍するための基盤整備として、身分証明書となるマイナンバーカード、パスポートで戸籍姓と旧姓の併記を幅広く認めることを掲げました。平成30~31年度を目途に実施予定とのこと。これによって旧姓は公的に担保、ほぼ全ての場面において何の支障も生じなくなる、といわれています。
「じゃあ、夫婦別姓にしなくてもいいじゃないか」との声も聞こえてきそうですが、それでは今までと何も変わらない。「夫婦同姓がいい」。それも個人の価値観ですよね。同じように「夫婦別姓にしたい」という人がいる。等しくその人の価値観なのです。
異なる価値観を認め合う――。それこそが『選択的夫婦別姓』の本質なのではないでしょうか。
※家制度…明治31年の旧民法において規定された制度。家長である戸主が家族を統率し、戸主の地位と家の財産は、原則、長男子が承継する制度。昭和22年に廃止されたものの、民法や戸籍法において未だその影響は大きい。 |
【参考】
法務省 選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について
厚生労働省 平成28年度 人口動態統計特殊報告 「婚姻に関する統計」の概況
平成28年度 内閣府委託調査 旧姓使用の状況に関する調査報告書(概要版)
内閣府男女共同参画局 女性活躍加速のための重点方針 2017