2回目となりました『LGBTと就労を考える』。前回のコラムを受け、今回は “働くLGBT (※1)” に着目します。10月、企業側・LGBT当事者側からの視点で “働く” をとらえたイベントが次々に開催、取材を通じ感じた “働くLGBT ” の今を追いました。
日本におけるLGBTの就労環境と課題
●100人の職場に8人 身近なLGBT
日本労働組合総連合会が行った「LGBTに関する職場の意識調査」(2016年)によると、職場におけるLGBT当事者は8%。約12人中1人、つまり100人の職場であればおよそ8人はいる計算になります。当事者の方はすぐそばにいる可能性が高いことが分かりますね。「うちの職場にはいないよ」と思っていても、カミングアウト(※2)をしていないだけかもしれないのです。
「え? カミングアウトをしたくないLGBTの人もいるの?」と思う方もいるかもしれません。実はLGBT当事者の方全員が全員「カミングアウトをしたい」と考えている訳ではないのです。
ここで、認定NPO法人・ReBitが行った『性的マイノリティの就職活動における経験と就労支援の現状(中間報告)』(2018)をみてみましょう。
応募した企業・組織にセクシュアリティ(※3)を「伝えたくない」と思っていた人は46.2%。これは「伝えたい」と思っていた人(19.5%)の2倍強もあり、カミングアウトをためらう、もしくはしたくない方が多いことが読み取れます。
出典:認定NPO法人・ReBit『性的マイノリティの就職活動における経験と就労支援の現状』2018
図1.就職活動のとき、応募した企業・組織にセクシュアリティを伝えたいと思っていたか、伝えたくないと思っていたか
ではなぜ「伝えたくない」と考えるのでしょうか。その理由として実に82.7%の当事者が「不利益を受けるかもしれない」と考えていることにあります。「採用結果に悪い影響がある」「家族や学校など他の人にも広められてしまう」「就職後に困る」など、周囲に理解がないことで、ハラスメントや悪影響につながることを懸念しているのです。
出典:認定NPO法人・ReBit『性的マイノリティの就職活動における経験と就労支援の現状』2018
図2.就職活動の時に、セクシュアリティを応募した企業・組織に伝えたくないと思っていた理由
●企業が取り組むLGBTへの取り組み状況
LGBT当事者がカミングアウトによるリスクを懸念しながら就職・就労する中、企業はどのくらい、またどのような取り組みを行っているのでしょう。
日本経済団体連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」(2017)によると、LGBTに対応する取り組みを実施している企業は42.1%。検討中の企業34.3%と合わせると4分の3の企業がLGBTに関して何らかの取り組みを実施または検討している、とのこと。
その内容は、LGBT差別やSOGIハラスメント(※4)禁止明文化、社内のLGBT啓発セミナーなど。職場においてLGBTに関する正しい知識を共有し、当事者が不安を感じず仕事ができる、働きやすい環境づくりへの取り組みを重点的に行っていることが分かります。
出典:経団連『ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて』2017
図3.「既に実施」または「検討中」企業が行うLGBT取り組み
加えて、今年10月、2020年東京オリンピック・パラリンピックを控える東京都が可決・成立させたLGBTへの差別禁止条項を盛り込んだ人権尊重条例(前回コラム参照)を受け、都内の企業全てにおいてLGBTへの対応が急ピッチで進められています。
このように企業によるLGBTに対応する取り組みづくりが急速に増加している一方で、このような調査結果も。NPO法人・虹色ダイバーシティが行った『niji VOICE 2018 〜LGBTも働きやすい職場づくり、生きやすい社会づくりのための『声』集め〜』の速報調査結果では、
・この1年以内に職場で差別的言動を頻繁に見聞きしている(45.8%)
・職場でLGBT施策が何も行われていない(71.2%)
と回答する当事者の方がいることが明らかにされています。
LGBTの周知・取り組みが加速しているとはいえ、現場レベルではLGBT当事者と企業(のみならず社会)が乗り越えていくべき課題は山積している現状が浮き彫りに。ですが、その課題を解決すべく奔走するLGBT支援団体が多いことも確かなのです。中でも▽LGBTの就職活動支援▽LGBTに対応する企業の取り組みを指標化し、評価――といった当事者と企業の架け橋となるイベントが、10月相次いで開催されました。
“ 働くLGBT ” イベントレポート
●これから働くLGBT当事者の就職活動
~RAINBOW CROSSING TOKYO2018から見えたこと~
“ LGBTも自分らしく働く” を体感する『RAINBOW CROSSING TOKYO2018』--。LGBTを含む全ての子ども・若者の支援活動に取り組む認定NPO法人・ReBitが主催する日本最大級のLGBT就活イベントです。同イベントには、これから就職活動に臨むLGBT当事者や企業担当者など約800人が参加。参加企業はGoogle、マイクロソフトといった外資系企業をはじめ、丸井、JAL、NTTグループ、武田薬品工業など国内企業の参加も目立ち、その数35団体(同イベントにおいて過去最大)。企業側の関心の高さがうかがえます。
このイベント最大の特徴は、▽LGBT就活生が企業の採用担当者に直接LGBTへの取り組みを聞くことが可能▽すでに社会で働くLGBTのロールモデルに出会える――こと。同イベントの参加者が企業や先輩との交流・体感することで、就活に悩む当事者が “ 自分が働くイメージ ” を掴むことに一役買っているのです。
実際、入場時、少し不安げな表情浮かべる参加者は多いものの、ブースを回る毎にその表情には明らかな変化が。人は自身が働きやすい企業・職場を知ること、 “ 自分らしく働く ” イメージを具体的に抱くことで、ここまで表情が変わるのだと改めて感じました。
また、参加者の中には某衆議院議員が雑誌に寄稿した文から「LGBTに関心を持った」という高校生たちの姿も。「正しくLGBTを知ることで問題意識を共有したい。そしてどんな立場の人でも尊重し合える社会の実現のためにどう動くべきなのかを考えるために参加した」と話すその姿から、多様性を認め合う社会への確かな一歩を垣間見ました。
●今働くLGBT当事者から見た職場の現状と取り組み
~work with pride 2018から見えたこと~
“企業・団体等の枠組みを超えてLGBTが働きやすい職場づくりを日本で実現する” 。そのために企業や団体はどのような取り組みをするのか。その取り組みをPRIDE指標 によって可視化し、評価・表彰する『work with pride 2018 』。
同指標は、主催者である任意団体 work with pride が日本で初めて職場におけるLGBTへの取り組みを指標化したもの。▽行動宣言▽当事者コミュニティ▽啓発活動▽人事制度・プログラム▽社会貢献・渉外活動――といった5つの指標から応募企業の取り組みを審査のうえ、ゴールド、シルバー、ブロンズの三段階で評価。特に先進的な取り組み(LGBTが働きやすい職場づくりの定着状況や具体的な方法)事例については、「ベストプラクティス」として選定、その情報を公開することでLGBTの人々が自分らしく働ける職場づくりのきっかけを提供しています。
その意義は社会的にも大きく、今年は昨年応募数111社を上回る153もの企業・団体からの応募があったとのこと。また、ゴールド受賞企業も87→130社と急増しており、単に「取り組みを始めたよ」という企業が増加しただけではなく、その中身、質の高まりと変わりつつある社会の意識を感じます。
特筆すべきは、カミングアウトし働いている当事者の方々によるパネルディスカッション。 “ 様々なギャップを越えて、安心できる職場を次世代に ” というテーマのもと、語られたのは働くLGBTのリアルな現場。カミングアウトの経緯を絡めながら、当時の上司・同僚の反応や現在の職場環境、また当事者の立場から企業のLGBT対応をどう見ているのか。踏み込んだトークが繰り広げられました。
登壇者の共通認識としてあったのは、企業文化を大きく変えるために経営層による明確なLGBT支援宣言が必要だということ。そして地道な啓発活動の継続は社員一人ひとりの意識改革につながる――。登壇者の方たちの言葉の重み、そこにある確かな熱を肌で感じました。
「LGBTなどマイノリティと呼ばれる側が働きやすい社会は、どんな立場の人でも働きやすく、そして暮らしやすい社会のはず」――。多くの当事者の方が口にしたのはこの言葉でした。そこには個性を受け入れ、真の多様性を認め合う社会への実現に向けた大きな期待感もうかがえます。
誰だって、自分がどんな立場でも働ける(働き続ける)、そして生きやすい社会がいいはずです。いつか自分がつまはじきにされる社会でいい、なんて考える人はいませんよね。
LGBTをめぐる環境は変わりつつあります。その変化は一人ひとりの “ 意識 ” と “ 行動 ” の結果である――。取材を通じ、その事実を肌で感じています。LGBTをめぐる問題は決してLGBT当事者だけのものではなく社会全体で共有すべきもの。当事者と話し、一人ひとりが問題意識を共有することで、表に出にくい社会問題が可視化される。問題解決へのアクションに繋がります。当事者だけが抱えている、と思われがちな問題は点で存在しているのではなく、どこかで必ずつながっているのです。
「他人事ではない」。わたしたち一人ひとりが「違い」を知り、受け入れ、当事者意識を持つこと。解決のために一人でも多くの人が行動にうつすこと。それこそが多様な働き方社会を引き寄せる、大きな力となり得るのではないでしょうか。
【注】 (※1)本コラムにおけるLGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーだけではなく、インターセックス、アセクシュアル、クエスチョニング(セクシュアリティが判断できない人)など、ストレートではない多様な性を生きる人たちの総称として用いている。 (※2)カミングアウト・・・自分のセクシュアリティ(性のあり方)を自身の意思で他者に伝えること。 (※3)セクシュアリティ・・・性のあり方 (※4)SOGIハラスメント・・・好きになる人の性別(性的指向:Sexual Orientation)や自分がどの性別かという認識(性自認:Gender Identity)に関連して、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを受けること。また、望まない性別での学校生活・職場での強制異動、採用拒否や解雇など、差別を受けて社会生活上の不利益を被ること。それらの悲惨なハラスメント・出来事全般を表す言葉
【参考文献】
LGBT総合研究所 「職場や学校など環境に関する意識行動実態」
職場のLGBT読本 柳沢正和・村木真紀・後藤純一 実務教育出版
特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ 「niji VOICE 2018 〜LGBTも働きやすい職場づくり、生きやすい社会づくりのための『声』集め〜」(速報)