2018.08.24,

なかなか広がらないテレワーク その導入のカギはどこに?  

外回りの移動中でも、育児や介護をしていても働ける――。そんな『テレワーク』という働き方をご存知でしょうか? テレワークとは「情報通信技術 (ICT = Information and Communication Technology) を活用した、場所や時間を有効に活用する柔軟な働き方」のこと。最近だと『リモートワーク』という言葉のほうが身近に感じる方もいるかもしれませんが、テレワークもリモートワークも基本的に意味合いは同じ。ノートPCやスマホなどの端末とインターネットを利用し、自宅やカフェなどオフィス以外の場所で業務を行うワークスタイルです。

政府の「働き方改革」でも “柔軟な働き方” としてテレワークの導入と実施を推進しており、今年7月23日から28日にはテレワーク推進運動の一環として「テレワーク・デイズ」を開催し、そのニュースも記憶に新しいところです。このように盛り上がりを見せるテレワークですが、その導入率は意外にも低く2017年時点で13.9%(総務省公表)。推進されているテレワークがなかなか浸透しないのはなぜなのか。テレワークは就労者、企業、社会にどのような効果をもたらすのか。その “働き方” とともに課題と実現性を探ろうと思います。

 

多様な働き方によって構成されるテレワーク

●テレワークの形態

時間や場所の制約を受けないテレワークには様々な形態があります。まず、テレワーカーの雇用形態から見てみましょう。企業に勤める社員が行う「雇用型」と個人事業主や小規模事業者が行う「自営型」に大別されます。そして雇用型の場合、勤務を行う場所によって▽在宅勤務▽モバイルワーク(※)▽サテライトオフィス勤務――の3種類に分けられます。

図―1.雇用型テレワークの分類(働く場所による分類)

出典:総務省「平成30年版情報通信白書」より

 

総務省の平成30年版情報通信白書によると実際の導入事例では一番高いものから「モバイルワーク(56.4%)」「在宅勤務(29.9%)」「サテライトオフィス勤務(12.1%)」と続いており、現在のテレワークは外出することが多い営業担当者が出先で業務に取り組む、もしくは導入しやすい部署からトライアル的に取り組んでいる、といったことがデータから推測できます。

 

●テレワークのメリット

次にテレワークがもたらす効果を見てみましょう。その効果は驚くほど多岐に渡ります。

<企業のメリット>

・人材の確保・育成
・業務プロセスの革新(仕事の見える化など)
・事業運営コストの削減(オフィス・ペーパーコストの削減や交通費の削減など)
・非常時の事業継続性(非常災害、パンデミック)
・企業内外の連携強化による事業競争力の向上
・人材の離職抑制・就労継続支援(優秀な人材の離職率低下、流出防止)
・企業ブランド・企業イメージの向上

<就労者のメリット>

・ワーク・ライフ・バランスの向上
・生産性の向上
・自律・自己管理的な働き方
・職場との連携強化
・子育て・介護との両立
・居住地の選択
・仕事全体の満足度向上と労働意欲の向上

<社会のメリット>

・労働力人口の拡大
・雇用創出
・環境負荷の軽減
・女性活躍推進
・介護支援
・地域活性化

 

例えば2時間かけて出社しているAさんの場合。会社が週1回、テレワークを導入したことでAさんは水曜日をテレワーク日に決め在宅で仕事をすることにしました。出社せず在宅で仕事をすると往復4時間の通勤時間が0に。通勤時間の削減によってAさんの肉体的・精神的な負担が減り、仕事の集中力向上につながりました。Aさんの企業は交通費削減、社会にとっては交通混雑の緩和がもたらされます。
また、今大きな社会問題となっている「介護離職」。その当時者の多くは40~50代です。この世代は社内において需要なポジションに就いていることが多く、こうした経験値の高い社員が介護を理由に離職してしまうことは企業にとって大きな痛手になります。テレワーク導入によりそのリスクが回避されることは、社員・企業双方にとって大きなメリットとなるでしょう。
その他、外回りが多い営業職であれば、クライアント先の移動や待機時間を有効に使いやすく、業務の効率が上がります。 “業務の効率が上がる” ということは企業にとっても大きなメリット。そのベクトルが大きくなればなるほど「長時間労働=仕事ができる」という図式は崩れますし、労働時間をベースにした評価制度も変わることになる。社員にとってもメリットになるでしょう。
「一部社員(子育てや介護で制約を受ける)の福利厚生」いうイメージが強いテレワークですが、業務効率や人材確保を望む企業の経営戦略とリンクする働き方でもあるのです。

 

テレワークの誤解

とはいえ、「テレワークは電話でする仕事なの?」「在宅勤務で本当に仕事は回るのか」「IT企業や大企業じゃないと導入は難しい気がする」というように、テレワークに対する誤解もその導入率に影響を与えているようです。
実際テレワークを導入している企業はゆるやかに増加しているものの、いまだ13.9%。同白書によると認知度も低く、「テレワーク」という言葉を「聞いたことがあるが、意味を知らなかった」「聞いたことがない」人は65.2%と就労者の過半数以上がテレワークという働き方を認知していないことが分かっています。

図―2.テレワークの認知状況(日本)

 出典:総務省「平成30年版情報通信白書」より

 

「制度の整備」「IT環境の整備」「社内の意識改革」がテレワーク導入の鍵に

テレワークに対する誤解や認知度の低さの他に、どのような課題があるのでしょうか。同白書のデータから詳しく見てみましょう。
下図はテレワークを利用していないが利用したいという希望を持つ就労者を対象にテレワークを利用する上での課題について調査した結果です。

図―3. テレワーク実施の課題(複数回答、テレワーク実施希望者)

出典:総務省「平成30年版情報通信白書」より

 

就労者側の課題として、「会社のルールが整備されていない」という回答が49.6%、「テレワークの環境が社会的に整備されていない」という回答46.1%と、社内でのルールや環境づくりが重要であることが明らかになっています。

一方、企業側の課題は情報セキュリティ問題や適正な労務管理、対象や業務が絞られることで社員同士の不公平感が生じてしまうことなどを挙げています(平成29年同白書)。
日本企業の多くは社員が決まった時間に同じオフィスに出社し勤務する、また仕事にプライベートを持ち込まず長時間勤務が当たり前、という働き方で成長を遂げてきました。そんな中で働いてきた経営陣や40~50代の中間管理職の中には、テレワークに抵抗感がある方も一定数いるのかもしれません。また、チャットツールなどいくらICTツールが整っていても「近くにいるのにチャットで会話を済まそうとするなんて失礼だ」という文化がある企業ではテレワークはなかなか普及しないでしょうし、メリットも享受されにくいでしょう。
調査結果から読み取れる課題は「制度の整備」「IT環境の整備」「社内の意識改革」――。大きな負担が予想されますが、この3つの課題さえクリアすれば、テレワークの恩恵を十分に受けることができるのです。

来年4月から施行される働き方改革関連法(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)により、罰則付きの残業時間の上限規制や有休休暇取得の義務化、同一労働同一賃金(大企業は2020年、中小企業は2021年)となります。多様な働き方の実現に向けた動きが加速することは既定路線です。
つまり、従来の働き方では企業成長につながらないどころかマイナスに転じる可能性がある、ということ。テレワークやパラレルワークなど “柔軟で多様な働き方” に対応できる環境を整えることは企業にとっても非常に重要なことなのです。

 

 

 

確かに全業種・全職種でテレワーク導入は現実的ではありません。ただ、現時点でテレワークに向いていない職種であっても仕事のプロセスと技術の進歩によりテレワークが可能になることは十分にありますし、「この業務はテレワークに向かないから」と仕事をひとくくりにして導入を判断するのは時期尚早といえるでしょう。
従来の働き方の概念が変わるテレワーク。導入の際にはそれ相応の予算、労力も求められることになりますが、テレワークがもたらす効果は非常に大きなものです。
「テレワーク」という働き方を通じ、個人のみならず企業、そして社会が多様性を認め合い、だれもが働きやすい社会に。そんな未来予想図は決して絵空事ではないのです。

 

※モバイルワーク・・・・・・ノートPCやスマートフォン、タブレットといった端末を利用して、移動中の電車内やカフェ、出張先などで業務を行う働き方。外出が多い職種などで有効といわれている。

 

【参考】
総務省「平成30年版情報通信白書」
「平成29年版情報通信白書」
「平成29年通信利用動向調査」
国土交通省「平成29年度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要-」
日本テレワーク協会
テレワーク・デイズ

Posted by Yamada Ikuko

編集&ライター業のママフリーランス。会社員の夫とともに「わが家らしい共働きスタイルってなんだろう?」と日々模索中。