2018.09.11,

将来の “両立が不安” な学生に「案ずるより産むが易し」と言い放つ無責任なオジサンたちに言いたいこと

こんにちは!共働き未来大学 代表の小山です。

無駄な残業を減らしつついかに生産性を上げるか。制約ある社員がモチベーションを下げずに活躍できる仕組みをどう構築するか。

クライアント企業の働き方コンサルティングや研修をしていると、働き方改革がいかに個人だけが頑張っても実現できないものかよく分かります。働く個人だけでなく、環境が、風土が、会社が、そして社会全体が変わっていかないとうまく軌道に乗らない−−−そんなことを身を持って感じる今日このごろです。

働き方改革、ワークライフバランス、女性活躍……

大学生を取り巻く就職活動でも企業はこぞってこうしたワードを用いて会社をアピールし、学生たちは彼らなりに「自分たちが働いてもいい(大丈夫な)企業なのか」を見定めています。決して組織にぶら下がりたいわけでも制度に甘んじようというわけでもなく、本気で長く働きたいからこそ、将来を真剣に考えている学生ほど「両立」を視野に動く傾向がここ数年高くなっているなと感じています。

社会に出る若者にとって「家庭と仕事の両立」は未知の領域。だからこそ、彼らが口を揃えて唱える「両立できるか不安です」についても、個人の価値観の問題にせず社会の問題として捉えていかないといけない。この辺のマインドセットが変わっていかなければ働き方改革も女性活躍推進も前進しない、と思うのです。

 

産んでもいないのに心配しすぎ!男のくせに育休のことなど考えるな!と言い放つオジサンたち

我が家は株式会社manmaが運営する家族留学(家庭版OBOG訪問)の “受け入れ家庭” に登録しており、これまで6回、大学生(若手社会人)を受け入れてきました。

このプログラムでは学生と共働き家庭の1DAYマッチング(家族留学)を通して自分たちのライフキャリアを考えるきっかけを提供しています。育児と仕事の両立をリアルに体験することで、“ライフ” の側面を大切にした将来を考えるのが狙いです。

これまでは圧倒的に女子学生の参加が多かったようですが、manmaによると、ここ最近は男子学生の登録やカップルでの参加も増えているのだとか。

5月に我が家が受け入れた家族留学の様子がフジテレビの報道番組に取り上げられたのですが、その時に来た “留学生” も、まさに就活中の男子でした。

「就活していると男性の育休取得の話題も出ますね。」

エプロン姿で料理を手伝いながらこう語るシーンも放送されました。

放送後、Twitterを覗くとさまざまな意見や放送の感想が投稿されていました。中でも私が「あーあ、やっぱりこう来るか…」と感じたツイートが以下。

 

男子のくせにそんなこと(育休)考えなくてよろしい

そんなのそのときになったら考えればいいんじゃない?子どももいないのに変

社会で働いたこともない学生が休むこと前提に就活するなよ

若いうちはがむしゃらに働くことを考えたらいい。それが新卒採用。

 

想定内とはいえ、モヤモヤ。ツイートの向こう側にいる人物がどんなデモグラフィック属性に該当するかは私には分かりませんが、少なくとも旧態依然とした価値観の持ち主だということは分かりました。

実は、私が企業に訪問していても同じような話はしょっちゅう出てきます。

 

女性活躍とか言って産育休ばっかり取りやすくしたって結局女性は辞めちゃうでしょ

男性の育休がトレンドみたいだけど、育児なんてのは嫁に任せておけばいいんだよ

こうした意見をお持ちの方は若い人や女性の中にも存在しますし、男性や企業の管理職・経営層でもこうした意識を持たない方もいますのであくまで一部の声ということにはります。

ただ、少なくともこうした意識は「働き方を変えていこう!」と士気を高める現場では足かせになります。特に管理職や経営者であるオジサンたちのマインドセットがこうした性別役割分担意識によるものなら、重い腰が上がりにくいのです。

「俺たちのときはがむしゃらに働いた(だから部下たちもそうあるべき)」「残業している奴が偉い」という過去の働き方への讃美が強いほど、両立難への理解も得にくいと感じています。

“幻の我が子” を抱いて右往左往する学生たち

話を家族留学に戻すと、我が家は先週末も2名の留学生(今回はいずれも女子学生)を受け入れました。

彼女たちは息子と一緒に遊びながら、夫と私に将来の両立への不安を話してくれました。

「母親が専業主婦だったので、身近で働きながら子育てしているいいロールモデルがいなくて…」

「私が大きくなってから母はパートで社会復帰したけれど、育児も家事も全部が母の仕事で。もし総合職のフルタイムという働き方をずっと続けると、仕事も家庭もかなりハードワークになるのかな…だとしたらやっていけるのかな…」

長くずっと働き続けたいからこその不安。ロールモデルについては確かに「これは無理だな」という逆ロールモデルばかりが目につきやすく、お手本にしたいロールモデルに出会うことが少ないのも事実。メディアもまた、育児と仕事の両立についてはハード面・ソフト面いずれも何かと大変な一面ばかりセンセーショナルに取り上げています。自分の未来を真剣に考えればこそ、不安に思うのは当然です。

まだまだ記憶に新しい「保育園落ちた日本死ね!」に関しても、「小山さんはどうだったんですか?」と講義を持っていた大学でずいぶん聞かれたものです。その真剣な眼差しはまるで “幻の赤ちゃん” を抱いて路頭に迷う母のよう……。

ひとたびまだ見ぬ我が子を抱いて右往左往し出した学生は、そのままの状態で就職活動に突入し、またその情報の嵐の中で不安のトンネルを歩くことになりかねません。

先のツイートしかり、オジサンしかり、「そんなに真剣に考えたってしかたないじゃん。なんとかなるよ」と言ったところで、当の学生にとっては根拠のないエールでしかないので何の意味もありません。

私は、そんな彼女たちに「その不安を自分なりにどう向き合い、処理していくかがミソだね」と伝えているのですが、がゆえにこうしたプロジェクト(家族留学)を活用して、自分の軸を見つけながら未来を描いてほしいなと思っています。家族留学はそういう意味でとても意義のある活動です。

「案ずるより産むが易し」は環境を整えてから言ってくれ!

『案ずるより産むが易し』とは、ご存知の通り、はじめる前はあれこれ心配をするものだが実際にやってみると案外たやすくできるものだというたとえです。

両立への不安を抱えた学生の例に置き換えると、「案外たやすくできる」イコール「実際適齢期になれば結婚も出産もできて、仕事もちゃんとできる」というところでしょうか。

………いやいや、そんなわけないでしょう。

少し話が逸れるのですが、以前担当していたある企業での女性活躍推進プロジェクトでの一幕をご紹介しましょう。

過去にスーパーウーマンみたいな一握りのデキる女性が活躍した事例があるA社では、その “成功事例” があるばかりに、スーパーウーマンじゃなくても目指せる女性活躍(ここでは育児との両立の意が強い)が意識として受け入れられない状況にありました。両立難を理由に続々と辞めていくママ社員やその予備軍に対し、オジサンたち…もとい経営陣・管理職は環境改善や制度設計を図ろうともせず、ただ日常的に案ずるより産むが易し的なエールを送るのみでした。しかし、両立難がそんな根性論でどうにかなるはずもなく離職率の上昇に歯止めがかからなくなると開き直ったように「やっぱり女性は使えない」「女性に管理職が務まるはずがない」と…。

そんな状況を目の当たりにし、私は思わずやや強い口調で反論しました。私自身、当事者として体験したからこその心の叫びとして。

「案ずるより産むが易しっていうのは、一部のスーパーウーマンではなく、みんなが両立できる環境をつくってから言いませんか? 現状の離職要因(両立難)を個人の責任にしているうちは活躍はおろか人材の定着自体おぼつかなくなりますよ!」

残念ながら、企業によっては両立ができないことやバリバリ働けないことは個人の能力の問題と捉える節がまだまだあります。極端なことを言うと、会社が働き方改革といって制度をつくったり環境を整えなくても個人が頑張ればそれで済む話だと本気で思っている方々も多くおられます。過去の成功事例を持ち出し相も変わらず長時間労働でゴリゴリ働かせるわけです。目先に多少のニンジンを吊るして。

「なんとかなるよ、心配するなよ」と相手の肩を叩くなら誰にだってできますが、それが叶う環境なしに言い続けるのはあまりに無責任だと私は声を大にして言いたいのです。

男性も女性も、きちんと活躍できる風土をまずつくろう

私も就職活動をしていた頃(2003年、最後の就職氷河期)、家族留学に来る学生たちのように、長く働けるのかどうかモヤモヤした時期がありました。

「女子ってだけでマイナスポイントだから、とにかくがむしゃらに働くことをとにかくアピールして!」 「一般職ならともかく総合職で育休の話なんかしたらアウトだからね!」

大学の就職課からこんなアドバイスをもらうほど当時は内定がゴールだったわけですが、総合職としていざ広告会社に就職してみると、本当に長時間労働を基準とした体育会系な環境でした。新卒採用の女性は優秀でモチベーションも高かったので最初の3年4年は圧倒的に女性が成果を残していたものの、それ以降になるとデキる人ほど早々に会社辞めて行きました。20時にデスクでハンバーガーをかじっている社員を「頑張ってるな!」と上司が誉めたたえる職場に感じる限界。

男性並みに働けることが、そこでの女性活躍の定義でした。

本気でバリバリ働く女性は必然的に結婚しない(出産しない)という人生にシフトし、家庭優先でライフを選べばキャリアが中断し。女性のキャリアは長い間ワークとライフがトレードオフでしたが、私も不妊治療で両立難に直面し最後は「辞めるか残るか」の二者択一を迫られた形でした。

今後、両立難は女性だけの問題ではなくなります。すでに「介護離職」は深刻で男性の働き方にも影響を与えはじめています。長時間労働ありきではなく、短い時間で効率よく働き成果を残すことが今後の社会にはマストとなります。

不安だけどワクワクする!がいい

家族留学は、仕事も家庭も “大変だけどそれなりに楽しくやっている(←ここ、大事!)” 生きたロールモデルに出会える貴重な場所です。我が家に来たこれまでの留学生たちも、彼らなりに何かを感じ取り、みんな一様に「大変そう……でも楽しそう!」と目を輝かせて帰っていきます。

この「楽しそう!」という気持ちを持てるかどうかが、両立の不安とどう向き合い進んでいくかを決めるターニングポイントなのだと思います。

どのみち未来は誰にも予測できません。だったらまだ見ぬ未来を憂うより「楽しみだなー!」とどんと構えていられる状態の方がいい。

私は留学生たちにあえて「案ずるより産むが易し」と言うことがありますが、それは決して無責任なエールではありません。夫婦が協力して楽しい共働きライフを送る土壌が整っているからこそ自信をもって「大丈夫だよ」と言えるのです。

 

家庭も職場も、人が集まり時間をかけてつくっていくものだから。
不安はあるけど楽しみ!
そう思える風土づくりは大切ですね。

Posted by 小山 佐知子

共働き未来大学ファウンダー、ワーク・ライフバランスコンサルタント
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