テクノロジーが進化し寿命もますます延びる未来に、私たちは働き方や生き方、人間関係までもを変えなくてはならない。−−こう提唱し「人生100年時代」というパワーフレーズを波及させた「ライフ・シフト」共同著者リンダ・グラットン氏。
「教育→仕事→引退」という従来の人生スタイルが崩壊することは本の通りです。これからはすべての人が「75歳」まで働くということを認識すべきではないでしょうか。
100年人生の働き方を再構築する上で、特に日本人が見直さなければならないキーワードの一つに「家族」があります。長寿社会は夫婦2人で働くことが何より重要になるためです。
グラットン氏は、今年春の来日講演で、「シーソーカップル」という新しい共働きの形を推奨しましたが、同時に、日本が共働き・共生社会と呼べるまでには、いまだ多くの課題や越えなければならない意識の壁があることも示しました。
そこで私たち編集部は、今年を「ライフ・シフト元年」とし人生の向きや位置を変えることで人生に変化を起こそうとアクションを起こした3組の夫婦を取材しました。
「共働き社会」へのシフトは進んでいない
●実は20年前から共働き家庭のほうが多いとう事実
意外に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本では1992年を境に共働き世帯が専業主婦世帯を抜き、今や「共稼ぎ」が一般的になっています。確かにここ数年は、それまで「M字」を描いてきた女性の労働力率も回復傾向が続いていますし、女性の社会進出は進んだ、と解釈できそうです。
●専業主婦願望は根強く、男性稼ぎ手モデルを引きずっている
取材を進めていくと、どうもこのグラフと矛盾しているように感じることがありました。女性が働きやすい機運になったにもかかわらず、「総合職ではなく一般職を希望する」という女子学生に幾度となく遭遇したのです。
彼女たちに共通するのは、専業主婦である自分の母親をロールモデルにしている点。「やりがいのある仕事には就きたいけれど、髪を振り乱して仕事を頑張って、辛い保活までして家庭と仕事を両立するなんて考えられない……。母親のように、キリのいいところで専業主婦になって子育てに専念したい。そんな声がどんどん耳に入ってきたのです。
彼女たちが憧れる「会社員の夫と専業主婦の妻」という家族スタイルは、そもそも1970年代から80年代に定着したもの。夫は企業戦士として会社に忠誠を誓い、妻は家事やケア労働(育児・介護・看護など)に徹する性別役割分業スタイルは、「人口ボーナス期(豊富な労働力があり教育費や社会保障費の負担が少ない状態)」にもっとも適していた働き方でした。妻はフルタイムの職に就かないことで夫の長時間労働や転勤にもしっかり対応できたのです。
それから30年が経ち、今や時代は「人口オーナス期(経済発展に成功した後、医療や年金制度が充実して高齢化が進み、社会保障費などが重い負担となるため消費や貯蓄、投資が停滞する)」真っ只中。時代も経済状況も大きく変化したというのに、性別役割分担意識だけは30年前のままの日本。
いま、子育て世代が「ワンオペ育児」に直面する背景には男性の家庭進出の遅れが指摘されていますが、制度はもちろん、男性の働き方や意識そのものも含めて変えていかなければ真の共働き共生社会にはならないものです。