2018.12.28,

2018年、2人で “ライフ・シフト”に挑んだ30代カップルたちの挑戦と葛藤

 働き方はマルチステージへ
ファミリー・シフトしよう!

●夫と妻が交互に大黒柱になることで長寿化時代時代に備える

グラットン教授は、来日講演で「日本の企業経営や部下のマネジメントにおいて今後もっとも重要なのは多様性を受け入れること」と述べた上で、家庭の中や職場において性別役割分担意識に縛られることなく、女性にキャリアの上昇が伴う仕事を任せることが重要だ、と説きました。

長寿化時代の資金計画という意味でも、夫婦で働き世帯年収をあげることはもっとも現実的かつ有効な手段だとし、夫と妻がシーソーのように交互に大黒柱になる「シーソーカップル」の可能性に触れていました。

男性側の意識変革や、男性が育児休暇を取得しやすい組織の風土づくりではまだまだ課題もありますが、これらが整う先には真の女性活躍社会が待っていそうな気がします。

 

●価値観や働き方を変えるのは容易ではない

とはいえ、現実問題、なかなかそうもいかないのが働き方改革。

「それができれば苦労しませんよ…」

今回私たちが取材する中でも、こうした声をよく耳にしました。「シーソーカップルかぁ。かっこいいけど、そんなに意識高い人ばかりじゃないよ。」「実際問題、10年20年先のことよりも目先の生活費が大事だもんなぁ…」。どの反応もよく理解できるものばかりです。

とはいえ、「ライフ・シフト」が描く未来は実にリアル。私たちの寿命が確実に長くなっているいま、こと仕事(キャリア)とお金については多くの人が「このままではまずい」と危機感を感じていることも分かってきました。

そこで、以下、とても興味深い話を聞かせてくださった3家族の事例をご紹介したいと思います。

2018年、ライフ・シフトに挑んだ3家族

 

●2人目不妊を乗り越え、新しい仕事にチャレンジしたMさん夫婦

2人目不妊に悩んでいたMさん夫婦は、今年3月まで自宅のある山梨県から1時間半かけて都内の不妊治療専門クリニックに通っていました。妻のミカさん(仮名・37歳)は3年前に第一子を妊娠したタイミングでフルタイムの仕事を辞め、最近まで育児に専念しながらパートで週2回だけ働いていました。しかし、不妊治療特有のスケジュールの読めなさに急な欠勤がが重なり職場への申し訳なさと世帯収入に貢献できない自分に罪悪感を募らせていました。

 

「2人目が欲しい!と強く思えば思うほど、時間的、経済的、そして肉体的な負担をしてでも治療に専念したくなって。でも、現実的に考えれば経済面での不安は大きくて、治療で貯金を切り崩すたび、なぜあのとき会社を辞めてしまったんだろうって悔みました。完全にキャリアもブランクができてしまったし前途多難です。」

 

夫のユウジさん(仮名・34歳)もそんな妻の状態を心配していました。それから4ヶ月、Mさんご夫婦は思い切って不妊治療をやめる判断をしました。ミカさんは3人家族でやっていくことを決めたら気持ちが楽になったしすっきりしたといい、2ヶ月間の就職活動を経て無事に正社員で働きはじめました。「長く働くことを考えて営業職にチャレンジしてみました。やりがいがありますし、経済的にも貢献できるようになったので将来の不安がぐっと減りました」と清々しい表情が印象的でした。

 

 

●パタハラをきっかけにキャリアダウンを選択し
ライフワークを充実させたTさん夫婦

広告代理店に勤務するタカシさん(仮名・35歳)は、人材会社で営業職として働く妻サオリさん(仮名・32歳)と7歳、5歳の子どもとの4人家族。サオリさんは現在3人目を妊娠中で3ヶ月後に産休に入ります。入社以来営業部のエースとして活躍してきたタカシさんは、上司からの信頼も厚く、順調に昇進を重ねてきました。

しかし、3人目の妊娠がわかり、3ヶ月間の育児休暇を取ろうと考え上司に伝えたところ、状況が一変。「これまでも急に迎えの連絡が来て帰ることがあったよな。周囲に迷惑かけてきたのに3ヶ月も休むのか?」と思わぬ反発を食らってしまったのです。さらには、「君は幹部候補だというのに、このままだと出世に影響するぞ。」と。もともと残業体質の部署のため、なんとか自助努力で生産性を上げて頑張ってきたタカシさんでしたが、この出来事をきっかけに「ここにいても窮屈なだけ」と悟ったようです。これも働き方を変えるチャンスと考え、それまで興味のあった人事部に思い切って異動願を提出しました。

妻サオリさんはそんなタカシさんを応援します。

 

実は私も人事部で働いていて、ちょうどイクボス育成の必要性を感じて部内で新しい研修を考えていたんです。異動希望が通って夫も同じ仕事になれば、会社は違えど情報交換などしながら仕事でも助け合えそうです。夫にはぜひ若い世代の良きロールモデルになってほしいです。

 

2人はその後、プライベートでブログを立ち上げ、ライフワークとして職場のハラスメントに悩む方たちの支援をはじめました。「ライフ・シフト」で描かれるポートフォリオ・ワーカーへの転身です。

これからの私たちのキャリアは単線ではなく複線。さまざまな活動を同時に行うことで生き抜く力を養うことが大切なのですね。

Posted by 小山 佐知子

共働き未来大学ファウンダー、ワーク・ライフバランスコンサルタント
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