こんにちは! 共働き未来大学プロボノ・編集ライターの山田です。
先日、2017年度における男性の育児休業取得率が発表されました。2016年秋の国際会議(WAW!2016)にて安倍首相が「『男性産休』で日本を変えます」と宣言するなど、働き方改革が進む中、「男性の育休」が一つのキーワードであることは間違いありません。
さて、気になるその数値はというと‥‥
5.17%。
これが最新の数値となりました。比較可能な1996年度の調査以降、過去最高となったそうです。とはいえ、女性の83.2%と見比べるとその差は未だ大きい、という印象はぬぐえませんよね。
実は一口に “育休” と言うものの、実は二つのパターンがあります。まず、『育児休業(育児・介護休業法に基づいて取得できる休業)』。こちらは男性であろうが女性であろうが関係なく取得可能。そして男性は妻(配偶者)が働いていようが専業主婦であろうが関係なく、原則として子どもが1歳になるまで休業可能な制度です。次に『育児休暇』ですが、こちらは育児休業以外に育児参加ができるよう、各企業ごとに制定しています。あくまでも育児のために “休みを取る” という意味合いのものであり、育児休業が取得できない労働者、もしくは育児休業と合わせて利用するものです。本コラムでは育児・介護休業法に定められている育児休業(以下、育休)に注目し、男性の育休を紐解いていこうと思います。
男性の育休における理想と現実の乖離
●実は働く男性の7~8割が育休を希望している
今年6月、明治安田生活福祉研究所が発表した『出産・子育てに関する調査』によると、子どもがいない25~44 歳の既婚者・未婚者のうち、子どもが欲しい気持ちがある・あった男性の『今後、子どもが生まれた場合に、育児休業を取得することについての気持ち』をたずねたところ、「ぜひ育児休業を取得したい」と「できれば育児休業を取得したい」を合わせ、実に7~8割が育休を希望している事実が明らかになりました。前回のコラムにおいても男子学生の育休取得への希望率が高いことは分かっていましたが、社会人として働いている男性においても、同じく育休ニーズが高い、という訳です。
男性がこれほどまでに「育休を取得したい」と考えているにも関わらず、実際に取得している男性が1割未満であるという現実。なぜここまで理想と現実に差が出てしまうのでしょうか。
●男性の育休取得に立ちはだかる「環境」「制度」「収入減」の壁
厚生労働省委託事業の平成29年度「仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究」の結果によると、男性が育休を取得できない主な理由として
「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」
「職場が育休を取得しづらい雰囲気だったから」
「会社で育児休業制度が整備されていなかった」
など、職場の雰囲気や上司・同僚への配慮、つまり男性が育休を取得することに関して職場の理解(環境)と制度整備が進んでいないことが挙げられています(下図)。
実際、同省の平成28年度雇用均等基本調査から、育休取得者がいた場合「代替要員の補充を行わず、同じ部門の他の社員で対応した」割合が53.6%と、他社員に仕事のしわ寄せがいってしまう現状であり、日本の多くの企業で根強く残る「男は仕事、女は家庭」といった固定観念が男性の育休取得や子育てへの関与を阻んでいることが読み取れるのです。
図 育児休業制度を利用しなかった理由:複数回答
平成 29 年度 仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書より作成
一方、育休を取得しない男性が抱える要素として「育休中は収入が大きく低下することが不安」といったことも。
現在の制度において、育休中に支給される『育児休業給付金』の給付額は、育休取得後の半年間は休業前の賃金月額の67%で、半年以降は50%になります。育児休業給付金は非課税のため、社会保険料や雇用保険料もかかることはありません。が、子どもが増えれば増えるほど出産・育児費用が掛かってしまうため、長期の育休取得には結びつかないという現実が浮かび上がってきます。家族が増えるにも関わらず収入が減ってしまうことに不安を感じるのは当然のことでしょう。そのため育休ではなく、有休をその代替として利用する男性がほとんどなのではないでしょうか。
男性の育休平均取得日数は5日未満
平成27年度の雇用均等基本調査では、育休を取得した男性の半数以上が5日間未満だったことも明らかになっています。先日、男性の育休取得が驚異の22.9%超えを叩き出し、世間を驚かせた千葉市ですが、その取得日数を見ると10日未満が7割を占めているとのこと。
実際、わたしの夫も仕事が多忙なこと、長期の育休を取得すると収入減に繋がることから、特別休暇+有給休暇を育休に充てました。第1、2子ともに産前後7~9日間(土日含む)ほどでしょうか。仕事の多忙さは今も変わらず、現在も平日は深夜帰りが当たり前。本人の家事・育児意欲は高いものの、現実的には不可能な状況が続いています。
あくまでもわが家の場合ですが、男女問わず家事・育児に関わりを持てるようになるには原則1回しか取れない画一的な育休ではなく、フレキシブルな制度を熱望してます。例えば
▽一定期間の定時帰り
▽ 病気や授業参観など必要に応じて(時間ごと、もしくは分割)取得できる短期かつ複数回取れる臨機応変な取得制度に
▽ 育休中の所得保障の充実
▽ リモートワークといった育休中の働き方の選択が可能になること
各家庭によって異なる家族との関わりを画一的な育休制度で「はい、どうぞ!」と言われてもなかなか難しい。制度上育休が取得しやすくなったとしても、当事者である取得者の育休中の不安(職場環境や収入面の不安、働き方)が解消されなければ結局のところ取得には至らないだろう、と話し合っています。
育休分割取得の制度検討へ
実は先月4日、少子化対策を検討する内閣府の「少子化克服戦略会議」が男性の育休を推進するため、育休の分割取得できるようにすること等を盛り込んだ提言をまとめ、検討に入ったとのニュースが飛び込んできました。少子化対策の一環として出産・育児にかかる女性の負担軽減を目指し、男性の育休取得を後押しすることが狙いです。
提言では、「育児の心理的、身体的負担の軽減には、育児の担い手である夫の家庭への参加を促す取り組みが不可欠だ」と男性に育児への取り組みを促しています。が、実際には育休取得のニーズが高い男性が取得に至るまでには ▽職場環境と意識の壁 ▽育休中、復職後のキャリア形成 ▽収入面での不安――といった課題が山積しているため、制度の整備と同時進行での細やかな対応が求められるでしょう。
ただ、各家庭ごとに異なる育休ニーズに対し臨機応変に対応できる分割育児休業の制度が現実のものとなれば、非常に有難い制度であることには間違いなく、実現に向けて期待したいところです。
一方、「家族意識が高まる」など個人のメリットに注目されがちな男性の育休ですが、株式会社ユーキャンが実施した『男性の育児休暇取得に関するアンケート』によると、「職場の周囲の人を気遣う意識」(43.5%)、「業務の効率化に対する意識」(41.7%)など、男性が育休を取得したことで仕事に対する意識が高まったという意見もあり、復職後の業務に対しても好影響を与えていることが分かります。
また、育休のメリットは個人である男性社員だけにとどまりません。育休を取得した男性社員には時間の使い方に対する意識に変化が見られ、その結果「残業代の抑制」(38.0%)に繋がっており、育休の推進は企業にとってもよい結果をもたらす、とも考えられているのです。
共働き家庭においても、また社会的な課題である女性活躍、少子化対策の観点からも男性による育休取得は欠かせません。それは男性の積極的な家事・育児参加によって共働き家庭が増加し、少子化に歯止めがかかったスウェーデンやドイツ、フランスなどを見ても明らかです。
ただ、制度がいくら整備されたとしても取得する側が罪悪感を感じていては無意味です。男女問わず育休が当たり前に取得・活用できること。建前ではなく、男性の育休を取り巻く環境が改善されていくこと。それこそが一番大切なことなのではないでしょうか。
皆さんは “男性の育休” についてどう思われますか?
【参考】
厚生労働省 雇用均等基本調査
平成27年度
平成28年度
平成29年度
平成29年度厚生労働省委託事業 仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業 労働者アンケート調査結果
明治安田生活福祉研究所 「出産・子育てに関する調査」
内閣府 平成30年版 少子化社会対策白書
少子化克服戦略会議 提言「少子化-静かなる有事-へのさらなる挑戦」
株式会社ユーキャン 「男性の育児休暇取得に関するアンケート」